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【バカテス美波ss】Ich möchte mich gern wissen.

2011年07月30日 14:38

はい、どうも。
記事全部書き終えた後に「あ、オーウムラウト(ö)が小文字じゃなくて大文字になってる」と思って小文字を検索しようと思いたつや否や、タブを変えるのを忘れて検索にぶちこんで打ってた記事全部消えました星崎です。
作品のお話とかしてたんですが、もう一気に書く気なくしましたどうしましょう。


えーっと、気を取り直して。
こんぺちゃっととか、散髪とか、高校野球とかがおもしろすぎて24時間すぎるところでした。危なかったです。
あと、昨日お話してたイケメンキックの人ですけど監督じゃなかったです。コーチですかね?
監督は超温和そうで2試合連続ホームラン打った選手に超お辞儀してました。
別のファインプレーの選手にしてましたけど。超慕われてそうです。


こんなに圧縮して書けるのか……
短編書きたいと思ったら一回書いた後に全部消すといい感じにまとまった短編が書けそうですね
絶対やりませんけど。


はい、お話の話いきまーす。
一応全部書きますけどちょっと淡泊になるのは許してください、泣きそうなんです。
えー、葉月の口調ですが、2巻登場時では美波に対してくだけた口調でしたが、5巻あたりでは美波に対して敬語を使っていたので、敬語で統一させていただきました。
その方が口調かぶりを防げるというのと、ぶっちゃけ作者(僕のことです。見直してみて誤解を招きそうだと反省)の趣味です。はい。


次に。
今回はちょっと毛色が違うお話かなー、と。
バカテスを読んでくださってる方の中に物書きさんがいるかどうかはわかりませんが、今回はちょっと構成がわかりやすいお話になっているかと思います。
まあ、東方の方も読んでいただいたのはたぶんそそわのみなのですが……。
たぶん大方の予想は当たってしまうのではないかと思います。そういう順番で書きました。
いや、ダメなんですけどね、わかってしまうようでは(苦笑
こんぺちゃっとは本当にいい経験になったと思います!

最後に。
今回も題名のドイツ語については単語や文法などあっているという保証はできませんのであしからず。
ドイツ語得意な人はどんどん指摘していってね!
和訳は「私は私を知りたくて」です
題名もちょっとわかりやすいかもしれないですねー


さてさて。
コメントのお返事もしていなかったので、次か次の次にでもお送りしようと思います。
いつもありがとうございます!

それでは今回はこの辺で。
ご意見ご感想などお気軽にどうぞ!
ss本編はいつも通り追記からお願いします
ではではー













 この胸の高鳴りが収まることはなかった。
 帰国子女で周りの環境に馴染めず――というよりも、そもそも日本語がおぼつかないせいで周りとのコミュニケーションも満足にできない始末だ。
 まあ、こんなものかな。
 そんな感じはあった。
 高校から、日本語が喋れないのに日本の学校に転校。それも交換留学生だとか、そんなものでは決してない。ただのドイツ育ちなのだ。
 助けの手だなんてものは、基本的にはない。
 バリバリのドイツ人であれば、日本語などできなくてもそれなりに周囲に溶け込めたのかもしれない。それはそうだ。日本語などしゃべれなくて当然で、周囲も積極的にサポートしてくれるだろう。まあ、物珍しさっていうのも助けているのかもしれないけど。
 誰かに助けてもらうことを期待するなんて、無駄なこと。
 それはきっと世の中の真理。
 この世界は、自分で生きていかないといけないのだから。
 そういう見方をすれば。
 彼はきっと神様だったのかもしれない。
 島田美波にとって。
 ウチにとって。
 吉井明久という存在は。
 だから、ずっと気になっていて、胸の高鳴りは止まなくて。
 鬱陶しいクラスメイトから、恩人、高校生活初めての友人という評価を経て、美波の中で評価は着実に推移していき。
 気になる男子なんて初めてできた自分は、その淡い気持ちに振り回されてばかりだった。
 気になる男子。
 そう。
 好きかどうかすらわからないのだった。
 それでも、廊下でばったり会ったら胸がドキドキして。
 どこかへ逃げ出したくなって。
 それでもその一瞬を永く永遠に延ばしたくて。
 それでもそれは恋心なのかどうかわからなくて。
 そんなある種悶々とした毎日を暮していたある日。
 こんな話を耳にした。

「ねえねえ雄二。一週間後は何の日か知ってるよね?」
「あ? 何だったか……俺がグレた日か?」
「いや……そんなリアルに重い話を引き出したいわけじゃなかったんだけど」
「ギャグのつもりだが」
「ギャグに聞こえないんだけど」
「んー、まあそうか? まあ、それはどうでもいいが。何だったか……」
「え、何さ。本気で忘れてるの?」
「バカの命日か」
「何こいつ酷い」
「そう言うなよ。俺だって覚えていられることと覚えていられないことがあるんだ」
「覚えられないことにカテゴライズされてるんだ」
「そう言うなよ。俺だって覚えていたいことと覚えていたくないことがあるんだ」
「何でより酷く言い換えたのさ」
「まあ、そう言うなよ。男に誕生日を覚えられていたところで嬉しくも何ともないだろう?」
「いや……覚えられてないのはちょっと悲しいよ」
「本音は?」
「いや本音だけど!」
「本当のところは?」
「プレゼントをよこせ」
「身の程を知れ馬鹿野郎」

 だから、こんな話が耳に入ってきたのだって。
 偶然でありながら必然で。
「……誕生日かぁ」
 そういえば知らなかったなぁ、なんて呟きを零しながらも。
 その顔は喜色と期待に輝いていた。
 この気持ちは、何なのかはわからないけれど。
 それでも。
 気を引かれてるのは確かなのだ。
 その原因。
 その中心。
 よくわからない感情で私を振り回す彼。
 一週間後。
 今日、島田美波がこの話を聞いてから一週間後。
 その日。一週間後のその日が。
 吉井明久の誕生日だ。


 
 Ich möchte mich gern wissen.
  -私は私を知りたくて-

 


 ★

「うーん。どうしようかしら……」
 とは言っても。
 何が喜ばれるのか、というのは皆目見当がつかない美波だった。
 好きな人の誕生日に何かプレゼントをしたい。
 したい、が。
 いったい何を贈れば喜ばれるのだろう。
「アキってば毎日毎日食に困ってるイメージなのよねぇ」
 ゲームやら娯楽やらに率先してお金をつぎ込んでるみたいだし。
 かと言って、ゲームを贈るというのも違う気がするし。
 一番欲しがっていそうなのが現金だというのが困る。
「うーん」
 いくらなんでも現金はありえないわよね。
 かと言って他に何を贈ればいいかわからないというのも困りものだ。
 やっぱり、日が浅いっていうのもあるのかしら。
 そう思う。
「…………」
 どうなんだろう。
 企画倒れの予感がする。
「じゃなくて!」
 とは言っても出てくるもの出てくるもの、くだらないものから実現不可能なものばかりなのだ。
「いくら食に困ってるって言っても昼食を一緒に食べる仲じゃないし、そもそも昼食を奢るのが誕生日プレゼントってありえないし、夕食に誘うなんてもっと違うわよね」
 どんな仲よ。
 気になるのか気になるのかわからないを超えて恋人同士じゃないか。
 下手するとそれ以上だ。
 うーん。
 かと言ってアクセサリの類を欲しがるタイプでもないような気がする。同じ理由で服も。
「んー」
 困った。
 これほどにもプレゼントを贈る相手にふさわしくない人物がいるだろうか。
 手前勝手に失礼な話だけど。
「プレゼントといえば何だろう……」
 プレゼント。
 それも誕生日プレゼントというのならば、当然気持ちがこもったものだろう。
 というと。
「手作り?」
 そういうものじゃないだろうか。
「料理?」
 手作りの定番という気がする。
「でもなぁ……」
 誕生日に料理って。
 恋人でもない相手に。
 高校生なのに。
 敷居が高いにも程がある。
「うーん……」
 頭を抱えながら部屋の本棚を眺める美波。
 集めている料理本を何冊か引き出す。
 料理には一応自信がある。
 これでも家事一般をこなしているのだ。
「なんかいい料理あるかなぁ……いいというかぴったりというか」
 雑誌のページをぺらぺらとめくる。
 誕生日特集とかあればいいんだけど。
「……ん?」
 誕生日特集。
 あった。
「……くっきー」
 クッキーか。
 お菓子。
 確かにそれはいいかもしれない。
 クッキー。
 定番じゃないか。
 誕生日だけじゃない。どんな記念日にも使えるじゃないか。
「でも、お菓子かぁ……」
 雑誌を手に持ったままベッドにばすっと倒れこむ。
 あいにくお菓子はあまり得意分野ではない。
 何せ日常生活で必要ではない。
 必要でないなら、技術もない。
「お菓子ねえ」
 両手を伸ばして、キラキラとカラフルな誌面をぼんやりと眺める。
 キラキラと。
 装飾過多な。
 そんなことしてる暇があるのが羨ましい。
 どうせ出てくるものを食べるだけの癖に――
「……って、何考えてんだか」
 倒していた体をがばっと起こす。
 ベッドに腰掛けるような格好になって、雑誌をもう一度眺める。
 見る距離を変えても、キラキラした誌面は変わらない。
 目がつぶれそうな輝きが。
「だからー」
 別に自分が不遇だなんて思ったことはない。
 料理ができるのは自慢できる特技の一つだし。
 それ以上に、自慢の家族なのだから。
「うーん……これがいいのかな」
 これがぴったりな気がする。
 重すぎず軽すぎず。
 誕生日にもぴったりの品で、かつ友人気分で贈ることができる。
 これ以上のものは見つからないんじゃないだろうか。
「……よし! これにしよう!」
 雑誌に大きく折り目をつける。
「明日材料を買ってきて、晩御飯食べた後に学校の宿題やって、その後できるかしら……?」
 レシピにはあまり時間がかかるようには書いていない。
「…………」
 美波は頭の中でタイムスケジュールを組み立てる。
「よし!」
 明日の予定は決定だ。



 ★

「おかしい」
 美波は台所の惨状を眺めて呟いた。
 オーブンから取り出したクッキーは半分に割れていた。しっかりと整形したはずだったのに。どうして割れるのか。
 形がしっかりしたものがあると思えば、一口味見してみるとおいしくない。食感が最悪だったり、パサパサしていたり、とても食べられたものではない。
 何より大変なのは――
「どうしよう、これ」
 洗い場は死屍累々だった。
 いや、無生物が散らかっているのを死屍累々と表現するのは正しいのかどうかわからないのだけれど。
 ボウルにかき混ぜ機、木べらにめん棒、型などなど。
「何が性質悪いってバターがべったべたすることなのよね……」
 洗うの時間かかるじゃないの。
 油でべたべたしたボウルを指でつついて、不快感とこれから訪れるであろう疲労を想像して、思わず美波の顔が渋る。
「……はあ」
 ため息を漏らす。
 でもそのため息で洗い物がどこかへ飛んで行ったり、消えてなくなったりするわけではないのだ。
 きちんと後片付けもしなければならない。
「はあ」
 もう一度だけため息を漏らして、洗い物を開始する。
 クッキーの収める先も考えなければならない。
 もちろん、自分の腹の中以外にはありえないのだけれど。




 ★

「はー……疲れた」
 翌日、学校から帰ってきた美波は部屋に戻るや否や上着を脱ぎ捨て鞄を放る。
 結局すべての授業で居眠りしてしまった気がする。
 気がする、というのは叱られた数だけで見れば今日の授業の総数である。
 しかしぼんやりしていたのを数えれば全ての授業でだ。ぼんやりしていたといってもどれだけの時間だったのかわからないのだ。もしかしたら数秒かもしれないし、もしかしたら数十分単位だったかもしれない。
 まあ、結論から言ってしまうと、今日の授業の内容なんて何一つ覚えていない。
 それほどの疲労感だったと言ってもいい。昨日のことは。
 慣れないお菓子作り。
 予想と見た目以上に疲れる片づけ。
 結果いつもよりだいぶ短い睡眠時間。
 それは寝てしまうだろう。我ながらそう思う。
 慣れないことするもんじゃないなー、なんて思いながら部屋着に着替えた美波は自室から出る。
 どれだけ自分が疲れていようと、そんなことは妹には関係がない。
 今日も両親は仕事で帰ってこないのだから、自分が面倒を見ないといけないのだ。
 夕飯を作るのは私の仕事。
 お菓子を作るのは、余計な仕事。
 そう自分に言い聞かせて美波は台所へ向かう。
 と。
「あ、お姉ちゃん。お帰りなさいですっ」
 そこには妹がいた。
 島田葉月。
 ツインテールとアーモンド形の瞳が特徴的な小学生。
 島田美波の妹。
 葉月が本を覗き込んでふむふむ唸っている最中だった。
 葉月はその本を手にてててと美波へと小走りに歩み寄る。
「これお姉ちゃんのですかっ!?」
「あ、置きっぱなしにしちゃってたかしら。ありがとうね、葉月」
 そういえば昨日は片づけが終わったらすぐに眠くなって自室に戻って、今日の朝もそれが祟っていつもより出るのが遅くなって――。
 うーん。
 学校生活どころか家事にも支障をきたしてるみたい。
「ごめんね、葉月」
「え!? なんでお姉ちゃんが謝るですか!」
「ほら、家事ほったらかしにしちゃって」
 美波は台所をざっと見回す。
 昨日の夜、今日の朝は気づかなかったが、片づけがかなり雑だ。というか食器などためた水に浸けたままのものもあるし。
「別にお姉ちゃんが責任負うことじゃないですよっ!」
「え、でも――」
「それにお菓子作りなんて素敵です! 実は葉月もずっと前から興味ありました!」
「そ、そうなの?」
「はいです! お姉ちゃんさえよければ葉月も一緒にやりたいです!」
 うーん。
 もう諦めてしまおうかと思ってたのに。
 これは、いいことだと思っていいんだろうか。
 迷惑をかけてしまうかもしれないけど……お言葉に甘えてみよう。
 美波はうん、と頷いた。
「じゃあ一緒にやりましょっか」
「ありがとうです!」
 葉月がニッコリと笑って小さくガッツポーズをした。
 そのあまりにも嬉しそうな様子に美波も思わず微笑をこぼす。
「でもですね、お姉ちゃん」
「ん?」
 その葉月が、一転しておずおずと、美波の顔色を伺いながら声を発する。
「このレシピ、ちょっとおかしいですよ」
「え?」
 そうなの?
 美波は葉月からレシピを受け取って眺めてみるが、どこがおかしいのかよくわからない。
 というか、お菓子のレシピというのをまともに見たことがないのでわかるわからないもなにもないのだけど。
「だってです、これいろいろとおかしいですよ」
 葉月が指をさす。
「『小麦粉』って。適当すぎます」
「え、でも小麦粉は小麦粉じゃないの?」
「薄力粉か強力粉かは大事です!」
「そ、そうなんだ……」
 力強い返事だった。
「お菓子はレシピが命です! ちょっと配分が違うだけでも、ちょっと過程が違うだけでも、成功か失敗かは大きくわかれるです!」
「そ、そうなんだ……」
 相槌しか返せない。こんなに熱く語られるだなんて。
「混ぜ方だってそうです! 粉を混ぜる順番、混ぜ方、タイミング、成功のためにはそれらは全部決まってるのですよ!」
「そ、そうなんだ……」
 あまりの剣幕に相槌がワンパターンになってしまった。
「このレシピはダメです。そもそもなんですかこの余分な飾りは。いりませんです。お菓子作りにこんな余計な飾りはいりませんです。確かに見栄えも大事は大事ですが過剰なのはダメです。何ですかこのごっちゃごっちゃさは。女子力ですか。こんな女子力アピールのお菓子はダメです。失敗します」
「ダメよ葉月。一度に3行以上のセリフを喋っちゃダメ。キャラが崩壊するわよ」
 というか熱意がちょっと怖かった。
 何だろう、流行ってるのかな……?
 最近の小学生は早熟っていうし……だからって女子力はどうかと思うのだけど。
「というわけでお姉ちゃん」
「な、何。葉月?」
 すごく圧されてる気がする。
「ちょっと私の部屋からレシピ取ってくるので待っててください!」
「う、うん……」
 お菓子のレシピなんて持ってたんだ。
 そう突っ込むどころか、心に思い浮かんだときにはすでに葉月は美波の前から姿を消していた。




 ★

 その後。
 葉月が持ってきたレシピはそれはもう素晴らしかった。
 材料と焼く時間しか書いていなかった自分のレシピに比べて、そのレシピの詳しいこと。
 ……よく考えたら、料理のレシピだってそれなりに詳しく書いてあるものなのだから、その時点でおかしいことに気付かなければならなかったのだけれど。
 ともかく。
 それを見ながら葉月と共にお菓子作りを再開した。
 まずは軽量から。
 レシピ通りきっちりとはかりで重さを量る。
 混ぜる順番も混ぜ方も、レシピとにらめっこしながら慎重に。
「上手いわねー……」
 葉月の手際を見ながら美波が感嘆を漏らす。
 いつも家事をこなしている自分がつきっきりで妹を引っ張っていくかと思いきや、その妹の方がよっぽど手馴れているように見える。
「最近クラスの女の子たちで流行ってるです」
「え、そうなんだ」
 葉月が言うには、クラスの一人にお菓子作りを趣味にしている子がいるらしく、その子が家で消化しきれなかった分を学校に持ってきたらしい。
 するとそれが大好評。
 憧れた周りの子たちが次々と学校に自分の作品を持ってくるようになったらしい――
「あれ?」
 そこまで聞いて美波が疑問の声をあげた。
「でもウチ、そんな話聞いてたっけ?」
 流行っている、という割にはそんな話は聞いたことがないし。
 聞く限り、それなりの数の子が学校に持ってきているらしい。
 それに見合った日付が過ぎているのではないか。
「ううん、言ってないですよ」
 葉月はあっさりと首を振る。
 そしてあっさりと続ける。
「そんなわがまま言ったら、お姉ちゃんに迷惑かかっちゃいますです」
「…………」
 それを聞いたとき。
 すごいな、と。
 高校生の自分よりも、小学生の妹の方がよっぽどしっかりしていると。
 そう思った。
 我慢しているのは自分だけじゃなくて。
 それを飲み込んでいるのは、妹の方なのかもしれなかった。
「葉月」
「うぇ、な、なんですかお姉ちゃん! 声が震えてるですよ!」
 え、それは困る。
 美波はん、と小さく咳払いをした。
「よし、これをもう焼いちゃうからお姉ちゃんに貸してみなさい」
「はいです!」
 美波はオーブンの焼き時間の設定を念入りに行った。
 ちょっと、長すぎるくらいに。


 
 ★

 オーブンが、焼き上がりを知らせる音をあげる。
 美波はオーブングローブをつけた手で、火傷をしないように慎重に皿を取り出す。
 カタ、という音を立ててゆっくりと皿を置いた。
「ん……。やっぱりそう簡単にうまくはいかないわね」
 料理には自信があったのだけど。
 出来上がった歪な形のクッキーを目の前にして美波は苦笑気味に漏らす。
 やっぱり料理とお菓子では勝手が違うということなのだろうか。
「え、そうですか? おいしいですよ?」
 葉月が美波の焼いたクッキーをつまみながら言う。
 もう食べてたの、と美波は苦笑を漏らしながらも。
「いや、ほら。味じゃなくて形がさ。悪いじゃない」
「?」
 言っている意味がわからないとでも言うように、葉月は首を傾げた。
 その仕草にこそ美波は首をかしげたかったが。
「形が大事だなんて誰が言ったですか?」
「え」
 無邪気というか、心底不思議そうに言う葉月に、美波は咄嗟に声が出なかった。
「お菓子に大切なのは気持ちなのですよ。それの方が形なんかよりも100倍メルヘンで、100倍ぴったりです!」
 葉月がニッコリと笑って言い切った。
 その笑顔に、その自信に、その明快さに、口調に。
 美波は、その言葉が心に沁みこんでいくのを感じた。
「お姉ちゃん、作ったクッキーどうするですか?」
「え、ど、ど、どうするって?」
 思わず声が震えてしまった。
 好きかどうかわからないけど気になる男の子に誕生日プレゼントをあげようと思って。
 言えない。
 言えるはずない。
「葉月は学校に持って行って友達に配るです! お姉ちゃんはどうするですか?」
「私は……」
 確か、来週の頭。
 吉井明久の誕生日は。
「来週くらいに、学校に持っていこうかしら」
 嘘は言っていない。
 言っていないから大丈夫、と美波は自分に言い聞かせる。
「じゃあ、もうちょっと練習してから持っていきましょう!」
「う、うん」
 勢いに気おされながらも頷く美波。
 それを見てウキウキとしながら二度目の焼きの準備をする葉月。
 自分は妹に支えられている。
 それに気づいているようで気づいていなかった。
 そのことに、今ようやく気付いたような気がした。




 ★

 そして。
 そして誕生日当日。
 その日が、吉井明久の16歳の誕生日。
 今日持ってきたクッキーは今までで一番の出来だ。
 なんて、乙女思想が頭をよぎってしまう程度にはいい出来だったと自負できる。
 美波は人知れずふふ、と微笑んだ。
 形はまだ少し拙い出来かもしれないけれど、その分ラッピングは丁寧に、時間をかけて。
 もちろん、気持ちもこめて。
 その、自分最高の出来の贈り物を、どうやってプレゼントするかはもう決めていた。
「おい! 貴様その手に持ったものは何だ!?」
「え、な、ななななんでもないよ!」
「須川! そいつが持ってるのは木下からの誕生日プレゼントだ! 始末しろ!」
「よし任せろ! そいつをそっちに寄越すんだ!」
「誰が渡すかあああああああああああああ」
「おい、逃げたぞ!」
「逃がすか! 何とか追、く、早い。何とかして包囲しなければ……!」
「裏切り者を始末する態勢が必要だな、須川」
「……ああ、そうだな。ちょうど2年生に上がる時期だ。何か考えておこう」
 ドタバタと。
 朝から響く足音は騒々しく。
 しかし明るく楽しそうだった。
 美波は、その騒動の中心にいる人物を遠くから眺める。
「おい、報告だ! もう一つ出てきたらしいぞ! 差出人は不明だがおそらく女性!」
「よし、捕まえ次第地獄を見せてやるんだ。行くぞ!」
 その騒動を横目に。
 美波はくすりと微笑みを漏らした。












 ★

「うう、酷い目に遭った……」
 下校時間。
 夕焼けのオレンジ色の中、明久は一人歩いていた。
「誕生日にプレゼントをもらうだけでこんな目に遭うだなんて想像してなかったよ」
 明久は体のあちこちにできた擦り傷を痛そうに見ながら言う。
「いや、まあ僕も似たようなことしてきたけど」
 明久の足は下駄箱に向かう。
 一日かけて、ようやく騒動は収まっていた。
「ん、何これ?」
 下駄箱の蓋をあけた明久は、自分の靴の上に小さな小包が置いてあるのを見つけた。
 恐る恐る、それを手に取ってみる。
「……怪しい。雄二たちのトラップじゃないよね?」
 疑い深く、その小さな袋を隅々まで観察する明久。
 今日一日で、最も明久を追い詰めたのが雄二とムッツリーニの二人だった。
 騒動が落ち着いたと見せかけて、最後にとっておきの罠をしかける。
 やりそうだった。
 あの二人ならやりかねないと思った。
 何せ自分だったらそうすると思うとなおさらやりそうだと思った。
「んー……でも包みがやけに可愛らしいんだよね……」
 明久はじっくりと包みを眺める。
「……あの野獣にこんな女の子らしいセンスは皆無のはず。間違いない」
 というかあったらあったで怖い。
 そう呟きながら明久は包みを開けた。
 お菓子だった。
 様々な形のクッキーが袋の小さな口からのぞいていた。
「……クッキーだ」
 明久はその中から一つを指でつまみあげた。
「食べ物」
 食べ物は怖い。
 何せ雄二たちは何を仕込んでいるのか本当にわからない。
 やるとなったらやる男だ。
 自分がそうであるからなおさら。
「……何か不毛な気がする」
 明久はため息をついた。
 せっかくの誕生日なのだ。
 リスクも承知で、いやそれ以前に、自分に贈られたものはすべてプレゼントとして受け止めようじゃないか。
「……大丈夫だよね」
 最後まで不安げに、しかし意を決して明久は指の間の1個を口へ放り込んだ。
 もぐもぐとゆっくりと咀嚼し、嚥下する。
「おいしい」
 明久は頷いた。
 袋からまた一つクッキーをつまみあげる。
「ちょっと形は崩れてるかもだけどおいしい! くれたの誰なんだろう、誕生日プレゼントってことでいいのかな!」
 2つ目のクッキーを再び口に放り込み、小躍りしながら声をあげる明久。
「何だろう、誰か僕の苦労を知っててねぎらってくれてるのかもしれない……。とうとう僕を見てくれる人が……!」
 そんなことを上機嫌で呟きながら、行儀悪く中身を食べながら明久は昇降口を出て行った。
「うん」
 それを物陰から眺める少女が一人。
「うん」
 明久が帰る姿を後ろから眺めている。
「うん」
 明久の一部始終をずっと眺めていた。
 嬉しそうに。
 幸せそうに。
 明久の姿は視界の中でどんどん小さくなっていく。
 今。
 もし今ここで一歩踏み出したら。
 小走りで視界の中の少年を追いかけていって少し声をかけるだけで。
 それを作ったのは自分で。
 あなたのことが好き。
 そう言えるならば。
 いや。
 そう言えなくても。
 追いかけて、喜ぶ姿を隣で眺めて。
 好きな人の誕生日に一緒に二人きりで帰るならば。
 それは『好き』なんだろう。
 それが『好き』なんだろう。
 自分の抱いている気持ちは恋なんだと。
 そう言えるのだろう。
「うん」
 美波は歩き出した。
 明久と別の方向へ。
 弾むような足取りで。
 気になる男の子に背を向けて。




   -了-

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コメント

  1. ゆーき | URL | -

    Re: 【バカテス美波ss】Ich möchte mich gern wissen.

    美波ってやっぱりバカテスで一番の乙女だと思う。
    美波の気持ちや考えてることがすごく伝わってきてとても感情移入できました。
    さらに続編希望です!!

  2. ひろ | URL | -

    葉月ちゃんって本当にいい子で美波って本当にいいお姉ちゃんということを再確認。この姉妹本当にいい姉妹ですね。そしてこの美波ssシリーズ本当に神ss!

  3. はらつ | URL | -

    Re: 【バカテス美波ss】Ich mchte mich gern wissen.

    美波ssは少ないからありがたい
    明久と美波は早く結婚しろw

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